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「どこまで訳注をつけるか」

ヒラリー・ロダム・クリントン『村中みんなで』(1996年)訳者あとがき。

 翻訳をしながら悩んだことは、アメリカの読者には自明のことであっても、日本の読者には必ずしもそうでない事柄にどこまで訳注をつけるかという問題であった。たとえば、「家族の価値」という概念について、「アメリカの伝統的な家庭中心主義の生活を重視する価値観で、八〇年代以降、選挙の争点となっているスローガンのひとつ」とでも訳注をつければ、たしかに、読者にとって親切であったかもしれない。しかし、原書にないことを勝手につけ加えることで著者の意図した文脈をゆがめてしまうおそれがあるということと、賢明な読者の皆さんは、仮にこのことを知らなくても、豊かな想像力で「家族の価値」が意味するものをつかみとっていただけるだろうということで、この種の訳注はいっさいつけないことにした。つけだすと逆に煩雑になりすぎるということもあったのである。(p.333;太字引用者)